第8回(2022年度)
受賞者
佳作
日本郵便大賞
受賞作品一覧
大賞
佳作
【五木寛之賞】 東山増子さん (75歳/愛知県)
重度の脳梗塞で入院中の夫と久々の面会
その日付き添って下さった しのぶさんという看護師さんは自分の名札を見せて
「ご主人が私の名前を(きょうと)って読んだので 私ひらめいてじゃあ神戸は?と聞いたら(な、ぎ、さ)ってゆっくり嬉しそうに言ったんですよ」
とんち問答みたいなこの話は夫の十八番「昔の名前で出ています」と、わかった
ああ 茶目っ気は健在だった きっと心で歌ってる
私も台所で歌うからね
明日も平穏な心持であってほしい
選考委員からの
コメント
「昔の名前で出ています」を歌った小林旭さんと一緒に仕事をしたこともあるし、私のキャリアからも賞を贈りたい作品。
昭和の万葉集を作るとすれば、歌謡曲は必ず含まれます。
この作品にも、古代から伝わる日本人の歌ごころが反映しています。
【村山由佳賞】 秦 貴子さん (58歳/石川県)
犬・猫の殺処分のドキュメンタリー番組を見て大泣きした息子は、二年間誕生日プレゼントを辛抱し、保健所から一匹の子犬を救出した。
生後三ヶ月で捨てられた雑種犬に息子がつけた名前はリュウ。
息子は、大雨の日も、雪が降り積もる日も、受験当日もリュウの散歩を欠かさず、来春、獣医学部を卒業する。
耳も遠くなり、一日の大半を寝て過ごすようになった老犬リュウももうすぐ十五歳。
あと数年したら太一が診てくれるよ。
それまで元気でいてね。
選考委員からの
コメント
何度読んでも涙が出ます。
小さいころに見たドキュメンタリーがきっかけで一匹の子犬を救い出し、獣医を目指す息子――この作品からは、家族の結びつきも見えてきます。
もうすぐ15歳のリュウ。息子の「太一」は間に合わないのかもしれない。そんな予感もよぎって切なく、胸が熱くなるのです。
【齋藤 孝賞】 植木舞衣さん (8歳/埼玉)
「今年の夏は協力しようね」
お母さんが言いました。
兄ちゃんがじゅけん勉強するそうです。
夏休みまで勉強するの?
あの兄ちゃんが?
じゅけんってそんなに大変なの?
はてなマークだらけです。
どこにも行けない夏はつまらない。
だからわたしは言います。
兄ちゃんは勉強をしているふりをしています。
ゲームきがあつくなっています。
おそくまでおきていて、たぶんじゅくはねています。
だからお母さんどこかに行こう。
兄ちゃんは本気だせ。
選考委員からの
コメント
読んで笑ってしまって、選びました。「笑い」は上位の基準。笑いは上位の知性です。
「ゲーム機が熱い」「たぶん塾は寝ています」で、兄ちゃんばれてるよと伝えているのが、面白い。
締めの「兄ちゃんは本気だせ」は、キレがいい発破のかけ方ですね。
日本郵便大賞
郵便名柄館賞
作品集を希望される方へ
受賞作、最終候補作を収載した作品集が
NHK出版から刊行されています。
以下よりご購入いただけます。
選考委員からの
コメント
「『とてつもなく』という言葉が効いています。
お葬式で爆笑、という場面設定も明るい作品に仕上げていますね。
「写真若すぎ」が流行語になるかもしれない?!
――3名の選考委員の話し合いから――